タンザナイトTOP>No.21:自転車を売る

自転車を売る

 おっと勘違いしないでください。自転車を売る、と言っても、ちっとも使わないフィットネス・バイクを売る、というわけではありません。フィットネス・バイクは断続的ながら、ちゃんと使っています。効果のほどはノーコメントですが…。

 僕らの仕事は、村の人たちが自分の生活のために木を植えたり育てたりすることを手伝うことですが、とにかく広い地域を対象にしていますから、プロジェクトから地域全体を巡回する、などということはできません。タンザニアでも県に属する農業、林業や牧畜などの普及員が現地に配置されていますが、彼らとて広い範囲をまわれるわけではありません。ましてや車やオートバイを持っているわけでもありませんし、持っていたところで一度故障したら、修理するお金は出ないでしょう。

 さて、こうした普及員の機動力を高めようと考えたのが、自転車の提供でした。自転車ならば免許も要らず、燃料も要らず、故障しにくく、また故障しても小さな村で簡単に修理することができます。タンザニアでは中国製の自転車が、インド製や自国製を押さえて大人気ですが、最も高価です。とは言っても1万円強、プロジェクトで購入して普及員に貸与しよう、と計画をしていました。

 ところが計画を話し合ってみると、タンザニア人スタッフが口をそろえて「普及員にお金を払わせるべきだ。」と言います。彼らの意見では、貸与するだけだと、自分のものでないので大切に管理しない、するはずがない、のだそうです。

 同じタンザニア人、多分彼ら自身の場合を思い浮かべているのだろうなあ、とおかしかったですが、結局同意し、「でも、普及員が自転車は買いたくない、と言ったらどうする?」と聞いてみました。でも全員が確信を持って「誰でも欲しがる。」と言います。ほんまかいなあ、と思いましたが、これは事実だったことが後でわかりました。

 「普及員には女性もいるけど、女性が村で自転車に乗ったりしたら変な目で見られないか?」と聞いてみると、これも「大丈夫。」どうやら男性ばかりが自転車に乗っているのは、自転車に乗ることが女性にとってタブーなのではなく、高価なものに女性は手が出せないというのが本当のところのようです。

 しかし県の職員である普及員の月給は自転車の値段の半分程度。一度では払えません。そこで県当局と相談し、特別のシステムを作りました。自転車を受け取った普及員は毎月給料から天引きで少しずつ支払いをします。そのお金は特別に開設された県の森林事務所が管理する口座に貯められます。そしてある程度貯まったら、このお金でまた別の普及員用に自転車を斡旋したり、将来的には古くなったものの更新をしよう、というわけです。

 つまり、日本側が最初の自転車の代金を提供し、県が運営する普及業務に用いる回転資金を生み出したわけです。普及員は高くて手が出なかった自転車を、ローンによって手に入れることができ、そしてその条件が自転車を普及の仕事に使うこと、ということですから、県は回転資金を得るわ、普及員は自転車を手に入れるわ、村を廻る効率はアップするわで、良いことずくめでみんなハッピー、のはずです。まあ実際のところ資金がうまく回るか、自転車がちゃんと職務に利用されるか、などはしばらく様子を見てみないとなんとも言えないわけですが。

 でも僕らがプロジェクトから直接普及に出かけるときに使う四輪駆動車の値段が一台3百万円。これに比べて16台入れた自転車の代金が合計で約20万円。3百万円なら240台もの自転車が購入できる計算です。車一台と、自転車240台の普及ではどちらが効果が上がるか…。おっと危うく口を滑らせるところだった。もっとも普及員がそんなにいないので実現の可能性はありません。