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タンザニアへようこそ

 9月11日、僕が運転するプロジェクトの車輌は、3週間余り滞在するプロジェクトの顧問役、加藤先生をホテルで拾うためいつもよりも遅めの出発となりました。ほかに乗っていたのはプロジェクトで一緒に仕事をしている佐藤さんと本間さんです。

 サメへ向かう途中から季節外れの雨が降り始め、車内での話題は「プロジェクト・サイトでも降っているだろうか?」「多分また降っていないよ」といったことでした。サメの町を過ぎると、予想通り雨は少なくなり、路面がかろうじて濡れている程度になりました。

 僕らの車の前にはトレーラーを牽いた大型のタンクローリーがおり、僕はプロジェクト・サイトも近いことだし、「追い抜かなくてもいいや」と思い、60km 程度の速度で、100m ほど後方に付いていました。タンクローリーがカーブに差し掛かるところで、対向車線にバスが来るのが見えました。するとその時、バスがスリップして斜めを向いたのがわかりました。タンクローリーの前 20m も無かったと思います。

疾走するバス。本文とは関係ありません。

 僕はその瞬間これは確実に事故が起きると悟り、周囲に逃げ場を探しました。

 案の定、コントロールを失ったバスはタンクローリーに衝突しました。大型車輌どうしの衝突です。衝突した2台がどちらに動くかは予想がつかず、左右どちらに逃げるべきか見極めようとした瞬間、バスがスリップをしたまま斜めを向き、右も左も道を完全に塞ぎ、猛スピードで突っ込んできました。

 咄嗟に左側にハンドルを切り、道から飛び出して逃げましたが、完全に避けることはできず、運転席側の側面、後部座席から後ろをぶつけられてしまいました。

 車を止め、気を奮い起こして全員の無事を確認し、車外へ出て被害状況を見ようとした所、後方でバスが道からはみ出し、横転しているのが目にとまりました。まだちょっとショック状態にありましたが、倒れているバスを見た瞬間つい先日聞いたばかりの、JICA の事務職員がバス事故に行き会って救助に手を貸した話を思い出しました。

 「乗客を助けましょう!」とほかの人に声をかけ、駆け出しましたが、バスがスリップするのを見た時から事故になることを予測し、心の準備ができていた僕とは違い、気がついた時にはもうバスが目の前に迫っていた他の人達のショックは大きかったらしく、みんな立ちすくんだままでした。

 バスに駆け寄ると、完全に壊れたバスの後部から怪我をした人達が次々に出てきます。その脱出を助け、自力で出てくる人がいなくなってから重傷者はいないかと倒れたバスの中に入ると、一人の若い女の人が横転したバスの下敷きになっていました。とても一人の力ではどうすることもできず、プロジェクトの車に向かって「ジャッキ、ジャッキ!」と叫ぶと、他の人達も我に返り、壊れた車からジャッキを取り出し始めました。

 でもそうこうしている内に通り掛かりの車や、近所の人達が集まり、男性10人くらいで力を合わせ、バスの片側を持ち上げて下敷きになった人を引っ張り出しました。僕が見つけた人を入れて3人が下敷きになっていました。

 結局タンクローリーの助手席に乗っていた人が放り出され、そこへ後部に牽いていたトレーラーが倒れて即死、バスの乗客もプロジェクトの別の車で病院に運ぶ途中一人が死亡、重軽傷者多数という大事故でした。

 一方僕らの車に乗っていた人は、すぐ脇をバスにこすられた本間さんがガラスの破片で手をわずかに切り、佐藤さんが足を車内でぶつけて少しすりむき、僕が救出作業中にちょっと引っかき傷を作った他、無事で済んだのは奇跡に近いと思います。

 重いタンクローリーが完全に反対側を向いてしまっていたことや、タンクローリーと衝突したにもかかわらず直進し、100m 余り後方の僕らの車にぶつかるまでがものすごく短かったことを考えると、バスは雨で濡れた滑りやすい路面で時速 100km を優に超えるスピードを出していたようです。

 この状況ではいずれにしろ避けきるのは不可能で、もしバスが前方でスリップした時点で気づかず、ハンドルを切るのが遅れていたら、まず間違いなくバスと正面衝突、日本人4人はほぼ確実に即死だったと思います。事故が起きたのは多分2秒程度の間、0.1 秒単位の判断で命拾いしました。

 救出作業が終わり、警察から事情聴取を受ける前に、一度鞄などを置くためプロジェクトの事務所へと向かいました。無我夢中でそれまで気がつきませんでしたが、なんだか左の腕が冷たいので服の袖を見ると、血がべったり付いていました。救出作業中に付いたバスの乗客のものだと思います。

 一瞬の判断で命拾いした僕らのような幸運な人もいれば、自分では判断する余地も無く命を落としてしまった人もいます。いったい何が生死を決めるのでしょうか。


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